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一括下請と出来高所有権の帰属に関する最高裁判例

 元請負人が発注者の承諾なく、一括下請させた場合の出来高の所有権について判示した最高裁判例を
ご紹介します(最判平成5年10月19日 最高裁判所民事判例集47巻8号5061頁)。
【事案】
1 注文者Yが自分の土地に建物を建てることを建設業者Aに発注したところ、Aがこの工事を一括して建設業者Xに下請に出し、実際の工事はXが自ら材料を提供して行った。
2 工事途中でAが倒産してしまったため、YはAとの契約を解除し、他の業者に依頼して建物を完成させた。
3 YとAとの請負契約(元請契約)では、注文者は工事中契約を解除することができ、その場合の工事の出来形部分は注文者の所有とするとの約定があったが、AとXとの契約(下請契約)にはこのような約定はなかった。
4 元請契約も下請契約もその代金は分割支払の約定であり、Yは元請契約に従ってAの倒産時までに代金の約56パーセントをAに支払っていたが、AはXに下請代金を全く支払わないままに倒産した。
5 Xは工事全体の約26パーセント程度まで施工していたが、建物といえる段階にまでは達していなかった。
6 注文者の承諾のない一括下請は建設業法で禁止されているところであるが(同法22条)、本件の一括下請もYの承諾はなく、YはAが倒産するまでXが下請していたことも知らなかった。
7 Xは、Yに対して、完成建物の所有権はXに帰属するとして建物明渡、所有権確認を求め、予備的に、完成建物の所有権はXにないとしても倒産時までに施工した出来形(建前)はXの所有であるとして民法248条、246条に基づく償金の支払を求めた。
8 第一審は、完成建物はもちろん、出来形(建前)の所有権もYに帰属するとしてXの請求をいずれも棄却したが、第二審は、完成建物の所有権は認めなかったものの、出来形の所有権はXに帰属するとして、予備的請求である償金請求を認容したため、Y、上告。
【判旨】
出来形(建前)の所有権もYに帰属するとして、第二審判決を破棄し、第一審判決に対するXの控訴を棄却。
「建物建築工事請負契約において、注文者と元請負人との間に、契約が中途で解除された際の出来形部分の所有権は注文者に帰属する旨の約定がある場合に、当該契約が中途で解除されたときは、元請負人から一括して当該工事を請け負った下請負人か自ら材料を提供して出来形部分を築造したとしても、注文者と下請負人との間に格別の合意があるなど特段の事情のない限り、当該出来形部分の所有権は注文者に帰属すると解するのが相当である。けだし、建物建築工事を元請負人から一括下請負の形で請け負う下請契約は、その性質上元請契約の存在及び内容を前提とし、元請負人の債務を履行することを目的とするものであるから、下請負人は、注文者との関係では、元請負人のいわば履行補助者的立場に立つものにすぎず、注文者のためにする建物建築工事に関して、元請負人と異なる権利関係を主張し得る立場にはないからである。」
【コメント】
請負契約において、完成建物の所有権が注文者と請負人のいずれに帰属するかについては、判例は、
特約があればこれに従うが、特約がない場合には、材料を誰が提供したかによって分け、注文者が材料の全部又は主要部分を提供したときは原始的に注文者に帰属するが、請負人が材料の全部又は主要部分を提供したときは、完成建物は原始的に請負人に帰属し、引渡によって注文者に所有権が移転するものとしています。このことは、下請負人がいる場合も妥当するものとされています。
この考え方を前提として、本判決は、注文者と元請との元請契約には所有権帰属の特約があるが、元請と下請との下請契約には特約がなく、かつ、材料を下請が提供して施工した場合には、所有権は誰に帰属するかについて、注文者の承諾がないままに一括下請されたケースについて、このような下請負人は元請負人の履行補助者的立場にあるものであるから注文者に対して元請負人と異なる権利関係を主張し得る立場にはないとして、元請契約の約定によって出来形の所有権帰属も決せられるとしました。注文者の関与できない元請や下請など工事をする側の内部事情いかんによって元請契約で定められた注文者の地位や権利が変動し、結果として注文者が代金の二重払いを余儀なくさせられるような事態になることは不合理であるとの判断に基づくものと思われ、妥当な結論と存じます。

最高裁判所第3小法廷判決 平成7年9月19日(判例タイムズ896号89頁)

【判決要旨】 甲が建物賃借人乙との間の請負契約に基づき建物の修繕工事をしたところ、その後乙が無資力になったため、甲の乙に対する請負代金債権の全部又は一部が無価値である場合において、右建物の所有者丙が法律上の原因なくして右修繕工事に要した財産及び労務の提供に相当する利益を受けたということができるのは、丙と乙との間の賃貸借契約を全体としてみて、丙が対価関係なしに右利益を受けたときに限られる。
第1 原審の確定した事実関係等
1 上告人は、本件建物の賃借人であったAとの間で、昭和五七年一一月四日、本件建物の改修、改装工事を代金合計五一八〇万円で施工する旨の請負契約を締結し、大部分の工事を下請業者を使用して施工し、同年一二月初旬、右工事を完成してAに引き渡した。
2 被上告人は、本件建物の所有者であるが、Aに対し、昭和五七年二月一日、賃料月額五〇万円、期間三年の約で本件建物を賃貸した。Aは、改修、改装工事を施して本件建物をレストラン、ブティック等の営業施設を有するビルにすることを計画しており、被上告人とAは、本件賃貸借契約において、Aが権利金を支払わないことの代償として、本件建物に対してする修繕、造作の新設・変更等の工事はすべてAの負担とし、Aは本件建物返還時に金銭的請求を一切しないとの特約を結んだ。
3 Aが被上告人の承諾を受けずに本件建物中の店舗を転貸したため、被上告人は、Aに対し、昭和五七年一二月二四日、本件賃貸借契約を解除する旨の意思表示をした上、本件建物の明渡し及び同月二五日から本件建物の明渡し済みまで月額五〇万円の賃料相当損害金の支払を求める訴訟を提起し、昭和五九年五月二八日、勝訴判決を得、右判決はそのころ確定した。
4 Aは、上告人に対し、本件工事代金中二四三〇万円を支払ったが、残代金二七五〇万円を支払っていないところ、昭和五八年三月ころ以来所在不明であり、同人の財産も判明せず、右残代金は回収不能の状態にある。また、上告人は、昭和五七年一二月末ころ、事実上倒産した。
5 そこで、本件工事は上告人にこれに要した財産及び労務の提供に相当する損失を生ぜしめ、他方、被上告人に右に相当する利益を生ぜしめたとして、上告人は、被上告人に対し、昭和五九年三月、不当利得返還請求権に基づき、右残代金相当額と遅延損害金の支払を求めて本件訴訟を提起した。
二 甲が建物賃借人乙との間の請負契約に基づき右建物の修繕工事をしたところ、その後乙が無資力になったため、甲の乙に対する請負代金債権の全部又は一部が無価値である場合において、右建物の所有者丙が法律上の原因なくして右修繕工事に要した財産及び労務の提供に相当する利益を受けたということができるのは、丙と乙との間の賃貸借契約を全体としてみて、丙が対価関係なしに右利益を受けたときに限られるものと解するのが相当である。けだし、丙が乙との間の賃貸借契約において何らかの形で右利益に相応する出捐ないし負担をしたときは、丙の受けた右利益は法律上の原因に基づくものというべきであり、甲が丙に対して右利益につき不当利得としてその返還を請求することができるとするのは、丙に二重の負担を強いる結果となるからである。
前記第1の2によれば、本件建物の所有者である被上告人が上告人のした本件工事により受けた利益は、本件建物を営業用建物として賃貸するに際し通常であれば賃借人であるAから得ることができた権利金の支払を免除したという負担に相応するものというべきであって、法律上の原因なくして受けたものということはできず、これは、前記一の3のように本件賃貸借契約がAの債務不履行を理由に解除されたことによっても異なるものではない。

最高裁判所第3小法廷決定 平成10年12月18日

【判決要旨】 
1 請負工事に用いられた動産の売主は、原則として、請負人が注文者に対して有する請負代金債権に対して動産売買の先取特権に基づく物上代位権を行使することができないが、請負代金全体に占める当該動産の価額の割合や請負契約における請負人の債務の内容等に照らして請負代金債権の全部又は一部を右動産の転売による代金債権と同視するに足りる特段の事情がある場合には、右部分の請負代金債権に対して右物上代位権を行使することができる。
2 甲から機械の設置工事を請け負った乙が右機械を代金1575万円で丙から買い受け、丙が乙の指示に基づいて右機械を甲に引き渡し、甲が乙に支払うべき2080万円の請負代金のうち1740万円は右機械の代金に相当するなど判示の事実関係の下においては、乙の甲に対する1740万円の請負代金債権につき右機械の転売による代金債権と同視するに足りる特段の事情があるということができ、丙は、動産売買の先取特権に基づく物上代位権を行使することができる。

最高裁判所第2小法廷判決 平成11年4月16日(判例タイムズ1017号87頁)

【判決要旨】
代表者が請負代金の受領権限を有し、代表者が受領した代金は速やかに構成員に分配する旨の協定のもとで建築工事をすることを目的とする共同企業体が結成され、注文主が、共同企業体の代表者との間で締結した請負契約に基づき、代表者名義の預金口座に請負代金を振り込んだなど原判決挙示の事実関係のもとにおいては、右代金は、代表者に帰属し、共同企業体の財産にはならない。
【事案】
1 X会社とA会社は、B県から大学の建築工事を請け負うため、出資比率を各二分の一として共同企業体を結成した。その際、XとAは、共同企業体の代表者をA(C支店長)とすること、代表者が請負代金の受領と共同企業体に属する財産の管理権限を有すること、代表者名義の銀行口座(別口口座)によって取引すること、代表者が請負代金を受領したときは、速やかに構成員に分配することなどを協定した。代表者は、Bとの間で、本件請負契約を締結した。Bが請負工事残代金を別口口座に振り込んだところ、Aは、翌日右口座から右代金を払い戻してAの口座に振替入金した。しかし、その後、Aについて会社更生手続が開始し、YがAの更生管財人に選任されたが、右代金は、Xに分配されなかった。
そこで、Xは、右代金の半額について、(1)取戻権(会社更生法六二条)または賠償的取戻権(同法六六条)、(2)共益債権(同法二〇八条六号、八号)を有すると主張し、Yに対し、右金員の支払を求めた。
一審、原審とも、本件代金は、別口口座に振り込まれたことにより、代表者に帰属し、その半額がXに帰属したとか、全額が企業共同体の財産になったとはいえず、Xは本件協定に基づく分配金請求権を有するにとどまるとして、Xの請求を棄却した。
これに対し、Xは、原審の右判断には法令違反があるなどと主張して、上告したが、上告審(本判決)も、原審の判断は正当として是認することができるとして、上告を棄却した。

最高裁判所第1小法廷判決 平成11年11月25日(判例タイムズ1018号204頁)

【判決要旨】 
建築請負人からの注文者に対する請負契約に係る建物の所有権保存登記抹消登記手続請求訴訟の提起は、右請負代金債権の消滅時効中断事由である裁判上の請求に準ずるものとはいえず、右訴訟の係属中右請負代金について催告が継続していたということもできない。
第1 原審の適法に確定した事実及び記録に現れた本件訴訟の経過
1 被上告人は、昭和六一年七月一八日、上告人から原判決別紙物件目録記載の建物(以下「本件建物」という。)の新築工事を代金五一〇〇万円で請け負い、同年一〇月二五日にこれを完成させて上告人に引き渡した。
2 被上告人は、昭和六三年一一月一八日に本件訴訟を提起した。訴状に記載された請求の趣旨は、「上告人は、被上告人に対し、本件建物についての熊本地方法務局昭和六一年九月二〇日受付第四五六四五号所有権保存登記(以下「本件登記」という。)の抹消登記手続をせよ。」というものである。訴状の請求原因には、本件登記は、一部しか代金を支払わない上告人が被上告人から本件登記手続に必要な工事完了引渡証明書と印鑑証明書を不正に取得してしたもので、真実に反する無効なものであるから、その抹消登記手続を求める旨記載されていた。
3 被上告人は、第一審係属中の平成二年九月一九日に右請求を請負残代金請求に交換的に変更する旨の「訴変更の申立書」を提出し、同日の第一六回口頭弁論期日において、同書面を陳述した。
4 上告人は、請負代金をすべて弁済したと主張したが、第一審判決は、この主張を認めず、被上告人の請求を一部認容した。
5 上告人は、第一審判決に対して控訴し、原審第一回口頭弁論期日において、請負代金債権についてその弁済期である昭和六一年一〇月二五日から民法一七〇条二号所定の三年が経過したとして、消滅時効を援用した。
被上告人は、右消滅時効の抗弁に対する再抗弁として、本件訴訟の提起による消滅時効の中断を主張した。

第2 原審の判断
次のように判断して、請負代金債権の消滅時効の中断を認め、上告人の控訴を棄却した。
(1) 本件訴訟提起の際の訴訟物は請負代金債権ではなかったが、被上告人は、当初から請負残代金の存在を主張し、これについて請求の意思があることを明らかにし、主たる争点も当初から請負代金の弁済の有無であり、(2) 本件訴訟提起の当初の目的は、本件建物の所有権を確保することにより、これを請負代金の担保とすることにあったと認められ、(3) 本件登記の抹消登記手続請求と請負残代金支払請求とは、請負代金全額が弁済されていれば両請求とも認められなくなるという点で密接な関係があり、(4) 第一審において、被上告人は、訴訟代理人によらず、本人で訴訟を追行したという事情の下では、本件登記の抹消登記手続を請求する訴訟の提起は、請負代金の裁判上の請求に準ずるものであるから、請負代金債権の消滅時効を中断する効力がある。仮に、本件登記の抹消登記手続請求が、裁判上の請求に準ずるものではないとしても、少なくともいわゆる裁判上の催告の効力があり、その後の訴えの変更により消滅時効が中断する。

第3 しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
本件訴訟における当初の請求は、建物所有権に基づく妨害排除請求権を行使して本件登記の抹消登記手続を求めるものと解されるのに対し、訴え変更後の請求は、請負契約に基づく履行請求権を行使して請負残代金の支払を求めるものであり、訴訟物たる請求権の法的性質も求める給付の内容も異なっている。
そうすると、本件訴訟の提起を請負代金の裁判上の請求に準ずるものということができないことはもちろん、本件登記の抹消登記手続請求訴訟の係属中、請負代金の支払を求める権利行使の意思が継続的に表示されていたということも困難であるから、その間請負代金について催告が継続していたということもできない。
よって、請負代金債権の消滅時効の中断を認めた原審の判断は、民法一四七条の解釈適用を誤ったものというべきであり、その違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。論旨は理由があり、原判決は、その余の上告理由について判断するまでもなく、破棄を免れない。