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最高裁判所第2小法廷判決 平成15年10月10日(判例タイムズ1138号74頁)

【判決要旨】 
建物建築工事の請負契約において、耐震性の面でより安全性の高い建物にするため、主柱について特に太い鉄骨を使用することが約定され、これが契約の重要な内容になっていたにもかかわらず、建物請負業者が、注文主に無断で、上記約定に反し、主柱工事につき約定の太さの鉄骨を使用しなかったという事情の下では、使用された鉄骨が、構造計算上、居住用建物としての安全性に問題のないものであったとしても、当該主柱の工事には、瑕疵がある。
1 本件は、上告人から建物の新築工事を請け負った被上告人が、上告人に対し、請負残代金の支払を求めたのに対し、上告人が、建築された建物の南棟の主柱に係る工事に瑕疵があること等を主張し、瑕疵の修補に代わる損害賠償債権等を自働債権とし、上記請負残代金債権を受働債権として対当額で相殺する旨の意思表示をしたなどと主張して、被上告人の上記請負残代金の請求を争う事案である。
2 上告人の上告受理申立て理由第1点及び第2点のうち南棟の主柱に係る工事の瑕疵に関する点について
(1)原審の確定した事実関係
上告人は、平成7年11月、建築等を業とする被上告人に対し、神戸市灘区内において、学生、特に神戸大学の学生向けのマンションを新築する工事(以下「本件工事」という。)を請け負わせた(以下、この請負契約を「本件請負契約」といい、建築された建物を「本件建物」という。)。
上告人は、建築予定の本件建物が多数の者が居住する建物であり、特に、本件請負契約締結の時期が、同年1月17日に発生した阪神・淡路大震災により、神戸大学の学生がその下宿で倒壊した建物の下敷きになるなどして多数死亡した直後であっただけに、本件建物の安全性の確保に神経質となっており、本件請負契約を締結するに際し、被上告人に対し、重量負荷を考慮して、特に南棟の主柱については、耐震性を高めるため、当初の設計内容を変更し、その断面の寸法300mm×300mmの、より太い鉄骨を使用することを求め、被上告人は、これを承諾した。
ところが、被上告人は、上記の約定に反し、上告人の了解を得ないで、構造計算上安全であることを理由に、同250mm×250mmの鉄骨を南棟の主柱に使用し、施工をした。
本件工事は、平成8年3月上旬、外構工事等を残して完成し、本件建物は、同月26日、上告人に引き渡された。
(2)原審は、上記事実関係の下において、被上告人には、南棟の主柱に約定のものと異なり、断面の寸法250mm×250mmの鉄骨を使用したという契約の違反があるが、使用された鉄骨であっても、構造計算上、居住用建物としての本件建物の安全性に問題はないから、南棟の主柱に係る本件工事に瑕疵があるということはできないとした。
(3)しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
前記事実関係によれば、本件請負契約においては、上告人及び被上告人間で、本件建物の耐震性を高め、耐震性の面でより安全性の高い建物にするため、南棟の主柱につき断面の寸法300mm×300mmの鉄骨を使用することが、特に約定され、これが契約の重要な内容になっていたものというべきである。そうすると、この約定に違反して、同250mm×250mmの鉄骨を使用して施工された南棟の主柱の工事には、瑕疵があるものというべきである。これと異なる原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。
3 上告人の上告受理申立て理由第4点について
(1)記録によれば、上告人は、被上告人に対し、平成11年7月5日の第1審第3回弁論準備手続期日において、本件建物の瑕疵の修補に代わる損害賠償債権2404万2940円を有すると主張して(なお、上告人は、原審において、その主張額を増額している。)、この債権及び慰謝料債権を自働債権とし、被上告人請求の請負残代金債権を受働債権として、対当額で相殺する旨の意思表示をした。
(2)原審は、上記相殺の結果として、上告人に対し、上告人の請負残代金債務1893万2900円(ただし、ローテーションキー2個との引換給付が命じられた1万7510円を除いた金額である。)から瑕疵の修補に代わる損害の賠償額1112万7240円及び慰謝料額100万円の合計1212万7240円を控除した残額680万5660円及びこれに対する被上告人が上告人に送付した催告状による支払期限の翌日である平成8年7月24日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を命じた。
(3)しかしながら、原審の遅延損害金の起算点に係る上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
請負人の報酬債権に対し、注文者がこれと同時履行の関係にある目的物の瑕疵の修補に代わる損害賠償債権を自働債権とする相殺の意思表示をした場合、注文者は、請負人に対する相殺後の報酬残債務について、相殺の意思表示をした日の翌日から履行遅滞による責任を負うものと解すべきである(最高裁平成5年(オ)第2187号、同9年(オ)第749号同年7月15日第三小法廷判決・民集51巻6号2581頁)。
そうすると、本件において、上告人は上記相殺の意思表示をした日の翌日である平成11年7月6日から請負残代金について履行遅滞による責任を負うものというべきである。これと異なる原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。