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最高裁判所第1小法廷判決 平成22年10月14日(判例タイムズ1336号46頁)

【事案】
(1) Aは、平成16年7月、指名競争入札により、一部事務組合である東部地域広域水道企業団から浄水場内の監視設備工事を請け負った。
(2) 上記工事のうち本件機器の製造等につき、AはBに対し、BはCに対し、CはDに対し、Dは被上告人に対し、被上告人は上告人に対し、順次これを発注し、それぞれ請負契約が締結された。
(3) 被上告人と上告人との間で本件機器の製造等につき請負契約(以下「本件請負契約」という。)が締結されるに至った経緯は、次のとおりである。
ア Aは、上告人からの働き掛けに応じ、本件機器の製造等を上告人に行わせることにした。もっとも、上告人もAと共に上記(1)の入札に参加した関係にあったことから、Aが直接上告人に対して発注するのではなく、その子会社又は関係会社を介在させて発注することとなり、Cが、Aから介在させる会社の選択等を任された。
イ Cは、平成16年9月以降、被上告人に対し、受注先からの入金がなければ発注先に請負代金の支払はしない旨の入金リンクという特約を付するから被上告人にリスクはないとの説明をして、本件機器の製造等を受注して他社に発注することを打診した。被上告人は、帳簿上の売上高を伸ばし、山梨県の行う経営事項審査の点数を増加させて、公共団体等から大規模な工事を受注する可能性を増大させることなどを目的として、本件機器の製造等を受注することにした。
ウ Aは、同年11月、上告人に対する発注者を被上告人とすることを上告人に打診した。上告人は、被上告人の与信調査を行った上で、同年12月、Aに対し、これを応諾する旨回答し、平成17年3月、上告人と被上告人との間で、本件請負契約が締結されるに至った。なお、本件代金額とDと被上告人との間で締結された請負契約における請負代金額は、同額であった。
(4) 上告人と被上告人とは、本件請負契約の締結に際し、「支払条件」欄中の「支払基準」欄に「毎月20日締切翌月15日支払」との記載に続けて「入金リンクとする」との記載(以下「本件入金リンク条項」という。)がある注文書と請書とを取り交わして、被上告人が本件機器の製造等に係る請負代金の支払を受けた後に上告人に対して本件代金を支払うことを合意した。
(5) 上告人は、本件機器を完成させ、平成17年4月、本件請負契約において合意されたところに従い、本件機器をAに引き渡した。Aは同年5月にBに本件機器の製造等に係る請負代金を支払い、Bは同年12月までにCに上記請負代金を支払った。
(6) Cは、平成18年4月、破産手続開始の決定を受け、平成19年1月、破産手続廃止の決定を受けた。
(7) 被上告人は、本件機器の製造等に係る請負代金の支払を受けていない。

【判旨】
1 前記事実関係によれば、本件請負契約が有償双務契約であることは明らかである。
2 一般に、下請負人が、自らは現実に仕事を完成させ、引渡しを完了したにもかかわらず、自らに対する注文者である請負人が注文者から請負代金の支払を受けられない場合には、自らも請負代金の支払が受けられないなどという合意をすることは、通常は想定し難いものというほかはない。
3 特に、本件請負契約は、代金額が3億1500万円と高額であるところ、一部事務組合である東部地域広域水道企業団を発注者とする公共事業に係るものであって、浄水場内の監視設備工事の発注者である同企業団からの請負代金の支払は確実であったことからすれば、上告人と被上告人との間においては、同工事の請負人であるAから同工事の一部をなす本件機器の製造等を順次請け負った各下請負人に対する請負代金の支払も順次確実に行われることを予定して、本件請負契約が締結されたものとみるのが相当である。
4 上告人が、自らの契約上の債務を履行したにもかかわらず、被上告人において上記請負代金の支払を受けられない場合には、自らもまた本件代金を受領できなくなることを承諾していたとは到底解し難い。
5 上告人と被上告人とが、本件請負契約の締結に際して、本件入金リンク条項のある注文書と請書とを取り交わし、被上告人が本件機器の製造等に係る請負代金の支払を受けた後に上告人に対して本件代金を支払う旨を合意したとしても、有償双務契約である本件請負契約の性質に即して、当事者の意思を合理的に解釈すれば、本件代金の支払につき、被上告人が上記支払を受けることを停止条件とする旨を定めたものとはいえず、本件請負契約においては、被上告人が上記請負代金の支払を受けたときは、その時点で本件代金の支払期限が到来すること、また、被上告人が上記支払を受ける見込みがなくなったときは、その時点で本件代金の支払期限が到来することが合意されたものと解するのが相当である。被上告人が、本件入金リンク条項につき、本件機器の製造等に係る請負代金の支払を受けなければ、上告人に対して本件代金の支払をしなくてもよいという趣旨のものととらえていたことは、上記判断を左右するものではない。